Artec Leoでグラスゴー中に希望を呼び起こす
課題:二〇二一年度気候変動枠組条約締約国会議(COP26)のためにグラスゴー市内の三か所に設置される、三つの様々な大きさや素材を持つ、永遠の財産となる彫像の作成のため、高さ一.二メートルの彫像の正確なデジタル化を素早く、簡単に行うこと。
ソリューション:Artec Leo、Artec Studio、及びQuicksurface CADソフトウェア
結果:グラスゴーの各地に設置された、セメントを使わないコンクリート、地元産の木、再利用された金属が原料となる高さ三.五~二十三メートルの三つの彫像。
なぜ、Artecなのか:高解像度での素早いスキャニング性能を持ち、ケーブル不要でオンボード処理機能搭載のArtec Leoを使用することにより、スキャン中にオブジェクトの周りを楽に動き回ることが可能となり、極めて優れたデータを取得した上で素早く作業が完了した。
優れた作家や詩人、地域の子供たちの言葉が、この『希望の灯台(Beacon of Hope)』の彫像に刻まれている。画像提供:Keith Hunter Photography
それはある会話から始まり、グラスゴーの人々への贈り物へと実を結んだ。『The Hope Sculpture(希望の彫像)』の製作者であるスチュアート・パドウィック(Steuart Padwick)は、このように今回の事業を言い表した。
二〇一八年、スチュアート・パドウィックの受賞歴のあるデザイン企業は、ロンドンのサウスバンク付近のテムズ川から現れる頭部の彫像により、ロンドンのスカイラインに劇的な変化を与えた。Head Above Water(『溺れないでいる』、『生き延びる』の意)と名付けられたインスタレーションは希望、勇気、援助を表し、社会としての人類が現存する問題に関心を持っていること、そして精神的健康から心の傷となるものを除去する必要性を示す、力強いシンボルとなった。
「我々二人共、人々の心の健康から心の傷となるものを取り除きたい、と強く感じている」と、事業総括責任者のナタリー・メイ(Natalie May)は語る。「そして、我々は二人共、あらゆる形で、グラスゴーの家族や、個人的にも、そしてその他のすべてのものにも心を動かされてきた。この地はインパクトのある何かを行うには、素晴らしい場所のように感じた」
パドウィックとメイは、大規模な国際的構造技術企業であるRamboll社と共に、『The Hope Sculpture』を含む三つの主要なインスタレーションの製作作業を行った。「この企業は地球や社会問題、平等性、人々の心の健康に非常に熱心であり、良い行動精神を持つ素晴らしい企業である、と私は思う。そのため、我々は同じ考え方を持っていることが分かり、とても気が合った」と、メイは話す。
「『The Hope Sculpture』は、Ramboll社とのある会話から始まり、最終的に五十以上もの企業からのグラスゴーへの贈り物へとつながった。このインスタレーションは、より良い未来を創り上げるための協調と献身の持つ力の証である」とパドウィックは語る。
心の健康及び環境により深い観点を
数年前、Ramboll社のチームがパドウィックとメイに、グラスゴーで二〇二一年に開催される気候変動枠組条約締約国会議であるCOP26向けの製作予定の作品について尋ねた際、新たなプロジェクトが展開し始めた。
「Ramboll社は、環境保護と精神衛生を結び付けるものを共同で製作する気はないか、と尋ねてきた」とメイは語る。「そして、より良い、より環境に優しいものを創り上げることができれば、すべての人々の精神衛生の質を大幅に向上させることができる。そういったものを私たちと共に、創り上げたかったようだ」
二人は、即座に賛同した。「我々は環境や地球に関するもの、それも、一回限りのインスタレーションではなく、ずっと残るものであり、前向きなメッセージをも持つ作品を作る、という点に非常に関心を持った」
パドウィックが注目したのは、COP26の開催前に見た、グラスゴー市会議員の会話だった。「議員が五歳や八歳の子供たちと面会した際、子供たちは地球が爆発するのではないか、みんなが死ぬのではないか、と怖がっていた」と、パドウィックは話す。「あのような会話は、我々が今まで聞いたことの無いようなものであったため、このインスタレーションを『The Hope Sculpture』と名付けるきっかけとなった」
「あの子供たちは、怖がる必要はないと思う。もちろん、問題は存在するけれども」と、パドウィックは言う。「しかし、未来に対して胸が高鳴り、楽観的になる理由も存在する。我々は、そのことを人々に知らせたかった」
希望のメッセージを広めていく
目的は、心の健康、気候変動、未来への希望という三つの重要なテーマを促す彫像を製作することだった。グラスゴー地方議会のダンカン・ブッカー(Duncan Booker)博士は、Cuningar Loopを提案した。「このアイデアは、我々の望んでいたすべての項目に当てはまった。グラスゴーはスコットランド最大の再生地域であり、市の功績には目を見張るものがある」と、パドウィックは話す。
Cuningar Loopは、かつては炭鉱ではあったが、その後ゴミ捨て場と化したものの、今や美しい森林公園となっている。敷地全体は現在、スコットランド最大の再生事業であるClyde Gatewayの一部となっている。場所が一旦決定すると、調査が始まった。
「今回、初めて気づいたのは、グラスゴーはイギリス帝国の機関室の役割を果たしていた、ということである。巨大で、ヨーロッパでは最も豊かな都市の一つだった」と、パドウィックは語る。都市全体には、工場からの煙を噴出する煙突が散在していた。「この都市には、世界最長の二本の煙突が立っていて、最大の化学工場や最大の造船場、最大の蒸気エンジン工場もあり…」
しかし、ご存じのように、過去の重工業産業は何世代にもわたり影響のある、大規模な環境汚染や気候の変化をもたらした。このメッセージを強調するため、パドウィックは煙突の脱構築主義的なスケッチに取り掛かった。「そして、煙の代わりに、ワクワクする前向きで、環境により優しい未来へと手を伸ばす子供を据えた」と、パドウィックは付け加えた。以前の煙突とは違い、この脱構築的な煙突は、低炭素でセメントを使用しない、新しい種類のコンクリートよりできている。
画像提供:FourFifteen
Cuningar Loopの彫像に加え、パドウィックは更に二つの彫像もデザインした。一つは、一年に三千万人以上の訪問者のあるスコットランドの最も活気のある鉄道駅であるグラスゴー・セントラル駅に、もう一つはストラスクライド大学に設置されているものである。鉄道駅は、最も環境に優しい交通手段の一つであり、人々を繋ぐ場所でもあるため、この『希望の灯台』には特に意味がある。
「駅は人々の行き来する素晴らしい出会いの場であり、ポジティブな場所でもある」と、パドウィックは語る。更に、「しかし、駅はまた、孤独を感じていたり、精神上の問題を抱えていたりする人々を魅了する場所となることも多い」と続ける。最近の研究では、グラスゴーはスコットランドで最も自殺率の高い都市であることが判明した。希望の強いメッセージは、以前にも増して重要となっている。
3Dスキャニング導入の経緯
パドウィックは自身のスキャナを用いて、石膏製で全長一.二メートルの元型となる子供の彫像をキャプチャしたが、その出来に満足できず、完成したメッシュの質も良くなかった。成果物も低解像度であった上、製作過程にも多くの時間と労力を要した。「工程は非常に複雑で、オブジェクトの周りを何度も回る必要があり、途中でスキャナがフリーズすることも度々あった」とパドウィックは説明する。
しかし、Artec 3D社のゴールド認定販売代理店のパトリック・ソーン(Patrick Thorn)が参画すると、その解決法はすぐに見つかった。「私は、新しいロンドンにある場所へ移転するために梱包中であったArtec Leoと、自分のラップトップを持ってパドウィックのスタジオへ向かった」と、ソーンは語る。「Leoはケーブルも不要で、限られたスペースで使用できる、間違いのない機器であった」
Artec Leoは世界初のワイヤレスでAI駆動型の3Dスキャナであり、その使いやすさ、精度、性能は保証されている。オブジェクトや空間を苦も無く動き回ることができるLeoは、内蔵スクリーンとオンボード処理機能を搭載しているため、ケーブルもラップトップを片手に作業する必要もなく、自由にスキャンすることができる。今回の事業も含め、多くの用途に不可欠な性能だ。
「パドウィックにLeoを紹介した数分後には、彼が針金の骨組みと石膏で製作した希望の彫像の模型のキャプチャを完了した」と、ソーンは経緯を説明した。
その過程が完了すると、データはWi-Fiを介してラップトップ上のArtec Studioへと転送された。ソフトウェア上での作業も単純明快であった。「我々はオートパイロット機能を使用したが、プロンプトにいくつか回答するだけで、メッシュの完了には五分程度しか掛からなかった」と、ソーンは話す。「その後、メッシュは事業のために、完成時のサイズに縮尺変更された」
彫像は六つの異なる部分に分けて鋳造され、高さ三.五メートルの「希望の子供」を作成するために組み合わされた。画像提供:FourFifteen
「Artec Leoにより、その品質は只々、素晴らしいものとなった」と、パドウィックは語る。製作過程も非常に速く進んだ。「工程はとても素早かった。彫像の周りを一周しただけで、作業は完了した」
3Dモデルが完成すると、エクスポートされたSTLファイルはスキャンからCADへの変換ソフトウェアであるQuicksurface上で使用され、ソーンはモデルのサーフェスを加工し、円筒状のベースを追加した。「モデルはCADフォーマットであるSTEPでエクスポートされ、鋳物の製造業者へと転送され、グラスゴーのCuningar Loopに設置する『The Hope Sculpture』が製作された」と、ソーンは説明した。
同じデータを使用して、パドウィックはグラスゴー・セントラル駅に設置するクロスラミネート木材製の『希望の灯台』の彫像と、ストラスクライド大学に設置する金属製の『Hope Triptych(三連の希望)』のシルエット形状の作品のドローイングを完成することができた。
三つのカラフルな人型の作品は、低炭素でセメント不使用のコンクリート基礎を用い、地元で再生された鋼板で製作された。画像提供:Edinburgh Photographic
現在、グラスゴー中に恒久的に展示されているのは、三か所に設置された公共のアートインスタレーションの『The Hope Sculpture』である。
永続するメッセージ
「言葉は、大きな力を持つこともある。我々はより多くの人々に関わっていただくため、一連の彫像をコミュニティの大事な一部とする必要があった」とメイは語る。
Cuningar Loopの『The Hope Sculpture』に使用された、地元の浄水企業から再利用されたガラス、及び近くの採石場からの骨材と砂などの素材から、ブッカー賞受賞作家から学生までの、三十人のスコットランドの作家や詩人が「未来へ希望に満ちた気持ちにさせることは?」という質問を受けた上で三つの彫像に刻んだ言葉に至るまでを考慮すれば、完成したアート作品は、既にグラスゴーのれっきとした一部となっていると言える。
遊歩道や自転車道は、三つの彫像を結ぶ。画像:thehopesculpture.comより
この後も、『The Hope Sculpture』を何処でも、何処へでも設置できるインスタグラムフィルタや、パドウィックやメイが心の健康に関する大学での研究事業と関連付けるために製作中の3D拡張現実版など、更なる多くのプロジェクトや研究が継続される。
こういったすべての事業においてのメッセージはシンプルに、「我々は皆、助けの手を差し伸べられる」というものである。
「人々は、環境や気候変動などの事象に対して集うだけでなく、助け合うことでも変化をもたらすことができる」と、メイは話す。「我々すべてには人々、友達、交流が必要であり、皆、孤独を感じたくはないはずだ」
『The Hope Sculpture』が主張を一つ持っているとすれば、それは「サポート、共同体意識は存在し、如何なる試練があっても我々人類は共に向上していく」ということである。