3Dスキャンソルーション

Artec 3D社のウクライナへの支援内容

最高の状態での『小道具』の作成のための、サタデー・ナイト・ライブでのArtec Space Spiderによるホスト全員のスキャン

課題:サタデー・ナイト・ライブでの出演者の多さと、その出演者たちが扮するキャラクターの幅広いバリエーションに対応するため、それぞれのキャラクター用の顔の装具の作成に、ライフキャスティングが頻繁に必要となる。しかし、製作工程には長い時間が掛かる上、現場でのソーシャルディスタンスの確保が必要なため、この方法を続けるのが困難となっている。

ソリューション:Artec Space Spider、Artec Studio、ライフキャスティング、3Dプリンティング

結果:それぞれのキャストメンバーのスキャニングは数分で完了し、特注の装具が必要となった場合に、いつでも使用できる。

『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』主演のジェイソン・サデイキス(Jason Sudeikis)のスキャン風景

土曜日の夜の普段の様子は、どんな感じだろう? 長年の間、サタデー・ナイト・ライブ(SNL)でメーキャップアーティストを勤めているルイ・ザカリアン(Louie Zakarian)の場合なら、SNLのおなじみのコントのために、たくさんの俳優の出演準備をしているはずだ。そこでは、メーキャップから髪のセット、小道具からコスチュームに至るまでのすべての作業が行われる上、かなりの大混乱も起こる。何といっても、『ニューヨークから生放送』(訳者注:番組での決め言葉)だからである。

メーキャップ部門の代表であるザカリアンは、何十年もその仕事に従事し、その業績は、手にした八回のエミー賞と二十五年の勤続経験が物語っているが、近年、起こった変化によって、その作業方法を変える必要が生じた。その変更の中心となるのが、3Dスキャニングである。

「COVID-19が深刻な問題となった今、この状況に更に対応していくことのできる方法を模索していた」とザカリアンは語る。「これまでのライフキャスティングでは、一人の俳優に対し、二人のメーキャップアーティストが必要だった。その間、結構な量の身体的接触が起こるし、時間も二、三十分もかかる」

しかし、現在行われている3Dスキャニング方法であれば、役者の顔を隅々までキャプチャするには、その役者自身とスキャニング担当者がいれば十分であり、ソーシャルディスタンスの問題も解決する。ザカリアンはこう続ける。「今では、一人のメーキャップアーティストが一人の役者を十分以内でスキャンでき、身体的接触も無い」

ザカリアンは、3Dスキャニングを当面採用するつもりだったものの、満足のいくデータを収得できるようになったのは、Artec Space Spiderの扱いに慣れた後だった。ザカリアンはこう語る。「しばらくの間、スキャニングを色々試していたが、必要な解像度のデータを得ることができなかった。状況が変わったのは、Space Spiderによる3Dモデルをオンラインで見てからだ」

3Dスキャニングのソリューションを求めて

ザカリアンは、ArtecのアンバサダーであるTriMechの代表者と話し合った末、ある結論に至った。

TriMechのマネージャー、ジョッシュ・ワット(Josh Watte)はこう話す。「最初にSNLと聞いた時には、こう思ったよ、『サタデー・ナイト・ライブだって? スキャナで何をしたいんだ?』ってね。ルイと話してやっと、その目的と理由がはっきり分かった。COVIDによる全ての規制を考えると、製作過程に、文字通り、以前よりも手のかからない方法を適用しようとするのは、非常に理にかなっている」

「顔のスキャンをしたい、という取引先にはいつも、こう質問している。『他人の毛穴を見たいのかい?』って」と、アプリケーションエンジニアのブライアン・メッツガー(Brian Metzger)は語る。そのほとんどがそれを否定する中、ザカリアンは、SNLのコントでよく使用される精巧なメーキャップや装具を作るために、できるだけ詳細なデータを収得したいと頑固に主張する、珍しい顧客だった。そのために必要な詳細さと解像度を考えると、Space Spiderは理想的な選択だった。メッツガーは、「ザカリアンのライフキャストにはシワや毛穴が見て取れるし、自身の行うメーキャップにもそのレベルの細かさを求めているようだ」と認める。

より高みを目指す、意欲的な3DスキャナであるArtec Space Spiderは、当初は国際宇宙ステーションでの利用のために開発された。高解像度と忠実な色の再現を保証するSpace Spiderは、とても精密な小さなオブジェクトから、複雑なディテールを持つ大きなオブジェクトまで、すべてのものをスキャンするための理想的モデルである。Space Spiderは、撮影の難しい角度からのキャプチャや、複雑なジオメトリのキャプチャを鮮明に行えるよう製作されているため、番組で必要な顔のスキャニングには申し分のない機器だった。

コメディのスーパースターであるジム・キャリーが扮する、SNLのキャラクターの一つであるジョー・バイデン大統領が、まず初めのスキャンの対象となった。「最初のトレーニングセッションの後で、ルイに使い方を練習するように言うと、『分かってるよ、明日、やって来るジム・キャリーのスキャンを最初にしなきゃいけないのは、自分なんだからさ!』と言っていたよ」とメッツガーは回想する。

ザカリアンはこう説明する。「ジムは、装具をまず作る必要のあった、最初の役者たちのうちの一人だった。以前のライフキャスティングをジムに施す代わりに、Space Spiderで3Dスキャンをして、ジムの鼻のライフキャストをプリントアウトしてから、それを使用して、ジョー・バイデンに扮するための装具を製作した」

迅速で、簡単な作業工程

この新たな作業工程は、番組の出演者にも安堵感を与えた。この方法だと、型を取る顔から直接、その詳細をキャプチャすることが可能だが、ライフキャスティングは複雑な工程を経る必要があり、型取り、成型の段階に加え、型を取られている本人が一定の時間、じっと動きを止めていなければならず、二十分から数時間ぐらいかかる工程の間、ご想像のように、ずっと目を瞑っていないといけないのである。

ザカリアンは当時を思い出しながら、「ジムに、今回はスキャンだけすれば良くて、今までのようなライフキャスティングは必要ない、と伝えると、とてもホッとした表情を浮かべていた」と語る。

現在では、特殊な装具の必要な役者だけではなく、すべてのホストと役者がスキャンされている。「今では、出演者全員にやっている」とザカリアンは話す。

SNLの出演者サラ・シャーマン(Sarah Sherman)の印刷されたばかりの顔の型を持つルイ・ザカリアン(写真提供:エイミー・タグリアモンティ、Amy Tagliamonti)

通常、ライフキャスティングは木曜日か金曜日にならないと完了できないため、土曜日の生放送の前では、かなり時間の迫ったタイミングとなる。現在では、火曜日の写真撮影に来たホストを素早くスキャンするだけで、事足りるようになった。

「ホストが、自身の写真撮影のために火曜日に訪れたときに、五分間、時間を拝借して、その間にサッと顔のスキャンを済ませるんだ」とザカリアンは言う。「だから、水曜日の夜に(出演者の読み合わせが通常完了するとき)装具が必要だ、と気付いても、ライフキャスティングに来る出演者を次の日まで待たなくていい。顔のプリンティングはすぐに始められ、木曜日の朝にはそれが終わって、準備完了となる」

スキャニングは最小限の時間で済むのに対し、プリンティングは、製作工程の次の段階であるが、実際、工程で一番時間のかかるプロセスなのである。ザカリアンは「手元には、樹脂プリンターが二、三台あるので、ファイルデータを小さく分けて、それぞれのプリンターで別々にプリントアウトする」と説明する。キャリーの場合、ライフキャスト全体がプリントされ、その完了には十七時間もかかった。「夜の九時にプリントを開始すると、次の日の昼の二時ごろには完成していた。ジムの鼻の部分のデータは必要な鋳型から切り離して、別にプリントアウトした」とザカリアンは話す。「その部分のプリントアウトには七時間かかると分かったので、次の朝に現場に来た時にできあがっているように、印刷を設定した」

「ボヘミアンラプソディ」主演のラミ・マレック(Rami Malek)のプリンティング(写真提供:ルイ・ザカリアン)

この工程には時間が掛かるが、ザカリアンによると、時間にも勝る利点があるらしい。「これまでは、鋳型を取るのに二、三十分掛かり、その上で、表面にコーティングを施して準備するのにまた三十分掛かる。その鋳型にプラスターを流し込んでから、一時間後にやっと、実際に使用する型が取れる」とザカリアンは話す。「最新の3D樹脂プリンターは時間がもう少し掛かるが、身体接触を最小限に抑えられるという長所が、一番大事な点だね」

3Dスキャニングは、アメリカの最も有名な番組のいくつかにおいて、そのステージや舞台裏に活路を見いだしたが、活躍の場はさらに増えつつある。「NBCの鋳型用の部屋には、数百もの出演者のライフキャストが置いてあって、かなりの場所を取ってるんだ」とザカリアンは話す。

「でも、今では、プラスター性の鋳型をSpace Spiderで全部スキャンして、ハードドライブに保存しているので、収納スペースは空にできた上、そのスペースには、参考のためや、誰かが番組に戻ってきてホストを務めるときに使うために、ライフキャストのストックを置いておくことができる」

「SNLのような巨大な何かと仕事ができるのは、特別な気持ちがする」と、子供のころから番組を見て育ち、今でもファンであるマットは話す。「『SNLが今、大切なお得意様であることは非常にうれしいし、誇りに思う』、なんて言うくらいでは、この喜びは伝えられないよ」

そして、ザカリアンにも、さらに多くの仕事の機会が舞い込んでいる。

「Space Spiderを有効利用する新たな方法が常に見つかっている」と、ザカリアンは言う。「素晴らしい気分だよ。すべて順調だし、それこそが、待ち望んでいた結果だったのだから」

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