野外博物館をArtec LeoとRay IIのスキャナで3D化
課題:ポーランドのウッチにある考古学・民族学博物館では、中世の要塞とその中のものすべてを含む複数の遺跡を安全かつ迅速にデジタル化する必要がありました。最終的な目的は、それらの遺跡や資産の高品質なデジタルツインを作成し、アーカイブや保存を行うとともに、VRや教育、そして研究向けの3Dビジュアライゼーションを実現することでした。
ソリューション:Artec Leo、Artec Ray II、Artec Studio、Blender、ZBrush
結果:要塞やその他の建物、アーティファクト、そして広大な景観を正確に再現したフルカラーの3Dモデルが作成できました。このモデルは、教育向けのプレゼンテーションや、没入型のVR体験、そしてデジタル展示会などにすぐに使用ができます。
Artecを選ぶ理由: LeoとRay IIを使用することで、小さいエリアの細かい詳細から広範囲のエリアまでを徹底的にキャプチャすることができました。高速処理と高精度、シームレスなスキャナの統合に加え、3D Masterチームの専門知識がスムーズなワークフローと優れた成果を実現しました。

ポーランドのトゥムにある要塞をスキャンするためにArtec Ray IIをセットアップしている様子。画像提供:3D Master
一体、どんなことが民族学博物館での体験を本当に感動的なものにするのでしょうか? 数十年、あるいは数百年前に作られた家具や日用品、そしてさまざまなサイズの建築物に囲まれた場所に足を一歩踏み入れると、自分がまるでその時代の町に住んでいるかのように錯覚します。では、もし世界中のどこからでもそんな場所に飛び込んで当時の日常的に使用されるツールを発見したり、過去の人々の暮らしをリアルに体験できるとしたらどうでしょう?このような体験は、Artecアンバサダーとポーランドのウッチにある考古学・民族学博物館の協力により、既に実現しています。
デジタル時代における歴史の保存
1918年に設立されたこの博物館は、考古学、
Artec Ray II を使用した要塞のスキャンとアニメーション。動画提供:3D Master
クフィャトクヴェクにある民族学的複合施設は、この地域の文化的景観の重要な一部を成しており、住宅用の土壁の家や地下貯蔵庫、陶器窯、パン窯など多様な建造物が含まれています。これらの建物の一部は、19世紀後半から20世紀初頭の原型を基に再現されたものです。また、1820年に建造された風車や、さらに古い要素を含む20世紀半ばの製油所、そして20世紀初頭の鍛冶場など、保存状態の良い歴史的建造物も見られます。複合施設内の住宅の内装は、戦間期後期の典型的な田舎の家庭の暮らしを再現しています。歴史的な展示品に加え、地元の芸術家や職人によるワークショップも多くの来場者を魅了しています。
一方、トゥムの要塞からは、この地域の中世の遺産を垣間見ることができます。この古代の集落は中世初期に遡り、土塁や防御構造物などの要塞の遺跡が残っています。言うまでもなく、スキャンするオブジェクトが多岐にわたるため、このプロジェクトには適切な専門知識と最適なツールの両方が求められました。
最適なソリューションと最適なチーム
博物館はすでにArtec Space Spiderを所有しており、小規模なプロジェクトにそれを使用していましたが、博物館全体をデジタル化することは、特に3Dスキャンソリューションの面で大きな課題がありました。この点を考慮し、3D Master は長距離用LiDARスキャナのArtec Ray IIと、AI搭載のワイヤレス型スキャナのArtec Leoを導入し、屋内外をシームレスに統合したデジタル博物館を実現することにしました。
これら2種類のスキャナを組み合わせることで、文化遺産の保存をはじめとするさまざまな用途において、極めて効果的であることが証明されました。Ray IIとLeoは、繊細なアイテムから城や教会などの巨大な建造物までのあらゆる文化遺産を3Dでキャプチャできる理想的な組み合わせです。これらのデバイスは、その多彩なスキャン範囲により、シームレスに連携しながら、専門家が細やかな装飾から大規模な建造物をレンダリングする作業を支援しています。

野外博物館でスキャンを行っている様子。画像提供:3D Master
「Leoは、電源コードが不要で、照明条件に左右されず、操作中にノートPCに接続する必要がないため、携帯性に優れていることが大きな利点です」と、3D MasterのCTO兼プロジェクトリーダーであるラファウ・ヴィピシンスキ(Rafał Wypysiński)氏は説明します。「より高速で、屋外での使用に適しており、小さな部品だけでなく広い領域も対応可能です。さらに、様々な種類のスキャナからのデータ統合が簡単かつ迅速に行えるため、最終的な結果も非常に高品質になります」
チームはRay IIを使用してデジタル化プロセスを開始し、博物館の敷地内60か所以上の場所をスキャンしました。カロル・コモロフスキ(Karol Komorowski)氏がRay IIを移動させて操作している間、ピオトル・ヴィエチョレク(Piotr Wieczorek)氏はLeoを使用して展示品のより小さく複雑な部分をキャプチャしました。わずか1日で、チームは複数の場所を移動し、要塞や鍛冶場をはじめ、博物館の建物内のすべての部屋、さらには野外展示のすべての展示物をキャプチャしました。オフィスに戻ると、専門家らはデータをArtec Studioにインポートし、 グローバル位置合わせ機能を使用してスキャンデータを位置合わせさせ、三角メッシュを生成して初期の3Dモデルを作成しました。
一見、好条件に思えた天候は、実際のスキャンには必ずしも最適ではありませんでした。強い日差しと強風が課題となり、チームはテクスチャの不一致を修正しつつ、Ray IIを三脚で安定させるための工夫を求められました。それでも、3DMasterはプロジェクトを完了させ、さらにRay IIとLeoのテクスチャ出力を比較する実験まで行いました。そして、最終段階であるデータの処理へと進みました。

壁画をスキャンしながら小さな要素の色のキャプチャを比較している様子。Artec Leo(左)とArtec Ray II(右)。画像提供:3D Master
処理し、強化し、感動を呼び起こす
Leoによる高解像度データは、建築の細部などの複雑な要素を強化するのに最適でした。一方、Ray IIのスキャンデータは広範囲のエリアをカバーしてくれました。「両方のデータセットが揃ったら、点群を統合し、両方のスキャナのデータを組み合わせた最終的なメッシュを生成しました」と、Artecからゴールド認定を受けている3Dスキャンスペシャリストのピオトル・ヴィエチョレク(Piotr Wieczorek)氏は言います。「このアプローチの利点は、より詳細を必要とする細かい部分にはLeoの高解像度が適用され、建物や鍛冶場などの大きな領域はRay IIで処理されることです。そのワークフローは非常にシームレスで、唯一の課題は PCのRAM 容量でした」
すべての初期処理はArtec Studioが担当しましたが、より詳細な視覚化やアニメーションのために、3D MasterはBlenderやZBrushなどの追加ツールを使用しました。チームのグラフィック デザイナーであるアガタ・ヨヒメク(Agata Jochimek)氏は、それらのソフトウェアを利用してモデルを完成させ、モデルの微調整やメッシュを水密にする作業を行いました。さらに、特定のエリアにUVマッピングとテクスチャの細かい修正を施し、最終モデルを驚くほどリアルに仕上げました。これにより、VRウォークスルーやプロモーション用途に最適なデータが完成したのでした。
「私たちにとってのもう一つの課題は、エンジニアとしての視点でテクスチャやモデルのプレビューを捉えてしまうことです。5年前にZBrushの専門トレーニングを受けましたが、やはり専任のグラフィックデザイナーがいないと、技術的な作業と芸術的な作業の切り替えが難しく感じられました」と ヴィピシンスキ氏は指摘します。






テクスチャを適用する前後の、処理の各段階。画像提供:3D Master
忘れられない経験
3D Masterにとって、このプロジェクトは普段手がけるリバースエンジニアリングのような技術的な応用とは明らかに異なる新たな挑戦でした。要塞や鍛冶場、さらには工芸品で埋め尽くされた部屋など、多様な構造を含む博物館全体をスキャンするという挑戦は、非常に刺激的なものでした。館内のスキャンデータは驚くほど鮮明にレンダリングされ、その仕上がりはまるでビデオゲームや映画のワンシーンのようでした。ピオトル氏が述べたように、スキャンの没入感と、あらゆる角度から仮想的に探索できる機能が組み合わさったことで、このプロジェクトは特にやりがいのあるものになりました。
見た目の満足感に加え、このプロジェクトは顧客のリソースを節約することにもつながりました。「もう一つの重要な点は、時間効率の向上です。同じレベルの詳細と品質を実現したい場合、プロジェクトには通常は非常に時間がかかります。しかし、今回は2種類のスキャナと、専門チームの効果的な連携のおかげで、スキャン作業をわずか8~9時間で完了することができました。このスピードと効率性は、私たちにとっても、また新しいスキャナの導入を検討している見込み客にとっても、大きなメリットです」とヴィピシンスキ氏は締めくくりました。
工学と芸術の融合:博物館の未来
3D MasterのCEOであるラファウ・リス(Rafał Lis)氏のチームは、営業を通じて、クライアントが優れたスキャン結果を求めるだけでなく、その技術を使って他に何ができるのかにも強い関心を持っていることに気が付きました。
Artec LeoとRay IIを使用して、民族学の野外博物館を3Dスキャンしている様子。動画提供:3D Master
博物館には、無限の可能性が広がっています。「この技術によって、過去の生活を深く探り、当時の人々がどのように暮らしていたのかを知る絶好の機会になります。例えば、あるスキャンデータは家の一室を映し出し、その内部を覗き見ることができます。一方で、鍛冶場のスキャンでは、ハンマーや車輪、その他の道具まで細部にわたって記録されています。こうした空間を徹底的に捉える能力は魅力的です」とカロル・コモロフスキ氏は語ります。最終的に作成された3Dモデルは、博物館のウェブサイトにとって非常に優れたコンテンツとなり、訪問者の増加を必ず促進するでしょう。
このプロジェクトが進行する中、3D Masterは今後のカンファレンスで最終成果を発表する準備を進めています。これらの結果が示すのは、 専門知識と技術的精度、そして芸術的洗練 が融合することで、3Dスキャンの活用が新たな基準へと進化するということです。3D Masterのチームは、 世界中の博物館にインスピレーションを与える3Dプロジェクトを生み出し、 没入感があって、教育的で、視覚的にも魅力的な3D体験の可能性を示すこととなりました
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