Artec Space Spiderを使用した、ワイヤー彫刻のインタラクティブなNFTアートへの変換
課題:猫の彫刻をデジタル化し、アニメーション化したり、NFTアートへ変換したりするためにスキャンをすること。その難点とは? それぞれの彫刻は、細く、光沢のある、重なり合ったワイヤーでできているのである。
ソリューション: Artec Space Spider、及びArtec Studio
結果:二つの猫の彫刻は、Space Spiderを使用して無事にスキャンされ、アニメーション化された。現在、猫たちはブロックチェーンの世界に『住んで』いる。
空中に猫を描き、世界にシェアする
シンガポールのアーティスト、ビクター・タンにとっては、我々の周りの空間こそが紙で、彫刻に使用するワイヤーが鉛筆であり、その可能性に限りはない。
視覚障害を持つ、このアーティストはこう語る。「話は、アートカレッジの頃に遡る。自分なりのドローイングの方法を探していたが、難しい課題だったので、他の生徒とは違った、別の方法を探す許可を学校から得た。通常とは違った手段を試してみたが、その中に含まれていたのが、ワイヤーだった」
『空間が紙の役割、ワイヤーが鉛筆の役割を果たしているような感じだ』
ビクター自身がこのアートフォームを好むようになったのは、ワイヤーが単純ながらも、しっかりした性質を持っていたからだ。「ワイヤーはとてもやわらかく、とても細いが、屋外の環境での破壊的な自然界の力に対して、負けない力と強さを備えている」と、彼は語る。
「とても寒くて、辺り一面が氷で覆われていたパリにあるお城を始め、世界の一部の地域で彫刻を製作したが、鋼鉄性の彫刻はそういった気候にも耐え、色あせたりせず、今でも元の場所に立っている。上海などは、大気汚染がとてもひどいが、彫刻はそこでも未だに立っていて、太陽の下で輝いている」
しかし、そうした功績にとどまらず、ビクターは、自らのアートを更に飛躍させる、特別なことに目を付けていた。それが、自身の作品のデジタル化とアニメーション化である。
デジタル空間へ入り込む
デジタル空間での物体のアニメーション化を行う場合、次の段階として自然と頭に浮かぶのが3Dスキャニングである。ビクターは、3Dスキャニングのことは聞いたことはあったが、ワイヤー彫刻をアニメーション化したデジタル作品へ変換でき、自身の夢を後押ししてくれるような人は、誰も知らなかった。
「彫刻を実際にデジタル化できるような人には、会ったことがなかった」と彼は言う。「猫の彫刻のデジタル化については、スキャニング過程について更に学んだ後に、やっと、その難しさに気付いた」
ビクターの言わんとする難題は、スキャニング業界のすべての人にとってはおなじみすぎるもので、それは、細い線状の物体や、表面に光沢があるサーフェスは、悪評が上がるくらいキャプチャしにくい、というものである。ビクターの作品は、そのような課題のある素材で、その全体が構成されているのである。
しかし、ビクターは挫折することなく、自分の夢を現実にする必要があった。今回、ビクターの作品は、物語を基にした猫たち、という形態をとる。飼い主に引き取られたすべての野良猫について、ビクターはそういった特別な猫たちを、語り継がれる物語に、そして、皆で分かち合って楽しめるアートにしたかったのである。
「自分の作品に3Dスキャニングを施したい、という強い願望が過去にあった。自分の彫刻が、まったく別の、コンピューターの世界へ入っていく可能性について探ることに、心をとらわれてしまったように思う」と、ビクターは語る。自身の構想を完全に現実のものとするため、この作品の製作過程には、まだ先がある。
「自分にとって興味深いのは、スキャンされたワイヤー、そして彫刻が、さらにアニメーション化され、自分の描くアイディアに基づいて、その姿を変えていくことができるという点だ。そういったことは現実では無理だろうけれど、デジタル化できれば、すべてが叶う」
「デジタルアニメーションのような、超現実主義のスタイルの作品を通じて、彫刻が想像を超えた形で動いたり、変化したりする様子を見てみたい」
ビクターは、このような一筋縄ではいかない課題に取り組むための、良い相棒がいることに気が付いた。Artecのアンバサダー、Shonan Designだ。
光沢のある『猫』のスキャン
スキャニングの専門家であるリー・ショー・ホー(Lee Siow Hoe)は、この業務を前にして、頭の中が真っ白になった。「これは、おそらくスキャンできないだろうと思ったよ」と、リーは回想する。「細くて光沢があって、パウダーを吹き付けるのも、完全に洗い落とすことが難しいので不可能な上、とても複雑な構造をしている。そのジオメトリのせいで曲面がたくさんあり、そこかしこで線が重なり合っている上、この彫刻は曲がりやすい。完了できない可能性がかなり高い、高難易度の作業だと初めから分かっていた」
挑戦することをためらうことなく、リーは、この課題をいかに実現可能な作業とし、良い成果を挙げるかについて考え始めた。そして、その答えは、リーにとって明確なものだった。
「直ちに、Artec Space Spiderに手を伸ばした」と、リーは言う。「Space Spiderなら、きっと、どんなものでもキャプチャできる、と分かっていた」
ミリ単位未満の正確性を持ち、厳密な正確さが必要な際に、細かいディテールから優れたデータをキャプチャできるよう設計されたArtec Space Spiderは、国際宇宙ステーションでの使用を想定して開発されたが、地上の方でも、多くの業務において解決策を提供してきた。Space Spiderは、CADエンジニアやユーザー向けの、以前よりさらに精度が向上した性能を有する優れた精密機器で、高解像度で揺るぎのない正確さが必要な場合のための、ブルーライトテクノロジーを採用したソリューションである。
Space Spiderは、その安定した性能により、ワイヤーで創られた猫の細い線状部分や難しい方向からのキャプチャに理想的で、驚くほど簡単に使用できるツールとなった。リーが非常に驚いたのは、結果的にSpace Spiderの性能の証明ともなったが、スキャニングの準備が一旦整った後は、何の問題も生じずに作業が進行した点である。
スキャンに一時間、処理に四時間かけた後、リーはその出来上がりに驚き、喜びの声を上げた。「メッシュ化の最終的な出来栄えは、期待以上だった」とリーは語る。「スキャニングにおいても、Space Spiderのデフォルトのスキャン設定は、キャプチャには充分だった」
リーにとって、このプロジェクトは日常の作業を越えたものとなり、この業務に対する自身の熱意が異なる形で生じた。まず、挑戦となる課題だ。
「その性質を考慮すると、ワイヤー彫刻のようなものをスキャンするのは大変だが、やりがいもある。元の彫刻の光沢を台なしにしたり、変形させたりしてはいけないので、AESUBの昇華型スプレーを使える状況にあったのは本当に幸いだった。彫刻の方も、スプレーしたものが表面から蒸発したことを四時間後に確認した後、返却することができた」
彫刻のそこかしこにある小さい点が、重要なディテールとなる場合があるため、すべてのデータを保存してキャプチャした通りに扱う必要があった。
ワイヤーは、0.5ミリの薄さであったため、その複雑さの反面、スキャンごとのデータは非常に少なかった。スキャン中には、Artec Studio上でデータをチェックできることが必須だったが、Space Spiderがターゲットやマーカーを必要としないおかげで、それも可能となった。
ワイヤー彫刻の猫、『マーブル』には、多くの細い線状部分、鋭いエッジや扱いにくい隙間があった。
「本当にこの業務をやり遂げることができるのか、興味があった。できる限りのデータをキャプチャした結果、最終的には、一億ポイントもの生データを得た」と、リーは打ち明ける。このことにより、更なる課題が生まれた。この複雑な構造の猫の彫刻においては、すべてのポイントが重要となるため、大量のデータを扱っての作業は、こういったケースで頻繁に行われているような、単にポイントの数を減らすようなことで対処できるものではなかった。そこかしこにあるわずかな数のポイントが、猫の目やしっぽ、頬のヒゲなどの重要なディテールであり得るので、すべてのデータをそのまま、キャプチャされた通りに扱う必要があった。
彫刻そのものも、その取扱いに特別な注意が必要であった。彫刻はたわみやすい性質であるため、スキャニング時に慎重に扱う必要があり、その作業はすべて、段階ごと、部分ごとに行う必要があった。
「これまでスキャンした中で、最も難しい業務の中に入る。ベスト3に入るね!」と、リーは笑う。「しかし、これまでにない新しいことだし、とてもやりがいもあるため、キャプチャする解像度の限界を試すという点では、3Dスキャニングの新境地の開拓にもつながる」
アニメーション化されたNFTアートの子猫たち
猫の彫刻のスキャニングと後処理が終わり、驚くほど鮮明な3Dデータが無事に作成されると、その後には、今までよりも長い工程が待っていた。
ビクターはこう説明する。「基本的には、彫刻をデジタル化したかった。その上で、繊細で、まるで生きているようで、思わず近づいて触りたくなるようなアニメーションにしたいという、明確なアイディアを持っていた」
製作チームは、3Dスキャンデータを用いて、見る人の興味を引くような形で、3Dのワイヤー製の猫をアニメーション化することができた。そして、少しずつ期待度の上がるデジタルライフの更なるステージが、次に待っていた。「我々は、Opensea.ioで、アニメーションをNFTとしても発行した」と、Collective Perspectives株式会社の取締役、マイケル・チュア(Michael Chua)は語り、最終的な作品のディテールの出来に満足している、と付け加えた。
「彫刻のスキャニング、デジタル化、そして、アニメーション化の先にある次の段階は、彫刻をNFTに変換し、ブロックチェーンに準拠させることだ」と、リーは語る。「二次元のアートをNFTで扱っている人は多いが、これは彫刻で、しかも、ワイヤー彫刻である上、今ではアニメーション化もされているので、こういう形では、おそらく世界初ではないだろうか」
「こういった形で、ビクターのアートフォームに付加価値を付けることができる、と考えている」と、リーは続ける。「今や、彫刻はデジタルの世界にあるので、新しい世代の人々が、そのアートに触れることができるはずだ。この形なら、さらに多くの人々がアクセスしやすくなるはずだ」
この次の展開は?
このプロジェクトの主な共同製作者であるチュアは、今回の作品は、ワクワクするような、限りない未来の始まりだと考えている。
「ギャラリーの未来は、バーチャルギャラリーとなる」とチュアは述べ、デジタル式にアクセスできるギャラリーの利用しやすさを指摘した。「私がビクターのアートを収集し、皆さんが私のところを訪ねて来て、私の収集したコレクションを見ることができる、そのような光景を想像して欲しい」
現在、猫のマーブルは個人の収集家へ売却されたが、彫刻は双方とも、昨年、NFTとMetaverse空間の先導的存在、Metaverse Generation Clubにより開催されたバーチャルギャラリー、NFT99において、主な展示物として紹介された。
NFT99バーチャルギャラリーで、ワイヤー彫刻の猫が脚光を浴びる
今日の社会でのデジタルアートの可能性や近距離無線通信(NFT)の爆発的普及以上に、デジタル化における3Dスキャニングの役割を無視することはできない。それどころか、アーティストが、物語を付加しながら、自身のアートとの関係を深めることができるのである。「我々がキャプチャしようとしているのはプロセスであり、アートワークだけではない」とチュアは語る。「これは、ビクターが作品を製作したいきさつのような、アートワークそれぞれの背景にあるストーリーもデジタル化できる、ということだ」
我々は、最終的な成果にのみに重きを置くことが多いが、チュアが指摘するのは、アートには、作品そのものよりも、はるかに多くの注目すべきことがある、ということだ。「表現されたものは、ビクターのアイディアが生まれた経緯や、作品の製作過程、デジタル化、アニメーション化、そして、閲覧者との双方向性から生まれた、重要な作品だ」と彼は語る。「デジタル化により、その可能性は無限になる」
リーとShonan Designの製作チームにとって、アートの未来へのこういった形での貢献は記念すべきことだ。「アートをこういったフォーマットにデジタル化し、アニメーション化するという、この方法で、アートの分野に、そして文化に貢献している」と、リーは語る。「アートワークをデジタル化して、多くの人々とシェアできるというのは、とても建設的なことだと思う」
猫たちの旅はまだ終わらない。「ワイヤー製の猫たちは、程なく世界一周のツアーへ出発する」とチュアは語る。「そして、我々はビクターと共同で、猫の姿を世界中にもっと増やしていく」
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