研究の最前線でスキャンを活用:ケニアの原人発掘現場で3Dスキャン
目的: 電源の無い屋外で軽量のハンディ型3Dスキャナを使用するには、バッテリーパックを使用します。さまざまなサイズの古代の化石を、天候にかかわらずすばやく簡単にスキャン。スキャン・イメージを共有可能な3Dデルに変換し、3Dプリントを行います。
利用ツール: Artec Eva、Artec Spider
チームARTECはケニアのトゥルカナ湖で、世界的に有名な古生物学者と協力して、先史時代の動物やヒト科の化石を3Dスキャンしています。
トゥルカナ盆地研究所(Turkana Basin Institute:TBI)は、ケニアのトゥルカナ湖でヒト化の祖先やその環境の研究を続けています。人類学者が発掘している化石は、数百年前の生物に関する膨大な情報を私たちに与えてくれます。これらの化石を分析することにより、科学者は地球の複雑な歴史を再構築し、かつて地上に存在していた生命体の性質を分かりやすく解説することができます。
TBIのルイーズ・リーキー博士は「もちろん、人類の祖先であるヒト化の化石は、発掘する化石の1%に過ぎません。多くの場合は、豚や馬、象、齧歯動物、そして人類の祖先と共存していたその他のあらゆる生物の化石を収集しています。」と説明します。長年、TBIはこれらのさまざまなオブジェクトの発掘、分析、保存を行い、ケニア国立博物館の収蔵品に多大なる貢献をしてきました。
TBIの研究施設内。
その一方で、TBIのスタッフが化石を発掘し続ける中、先に発掘した化石と新しく発掘した化石の保存、記録、公表の方法が難しくなっています。保存で一般的に使用されている方法では、科学者や研究者が未加工データを適切に記録することができません。たとえば、オブジェクト間の距離を測定するために写真を使って3Dモデルを作成すると、骨形態分析ではぼやけた画像が生成されます。一方、3Dスキャナでは高解像度でイメージをキャプチャでき、高品質のビジュアルデータを生成することができます。
2014年8月、ARTECのスキャンチームのデニス・バエフとフランシスコ・コレアはナイロビの北にあるコービィ・フォーラのTBI施設に到着しました。そこで、地域で発掘された化石を直接見て、TBIが保存に苦労していることを目の当たりにしました。デニスとフランシスコはARTECの大人気商品で、パワフルな高解像度ハンドヘルド3Dスキャナとして定評の「Eva」と「Spider」を現場に携えていました。
TBIのフェロースタッフと一緒にデニスとフランシスコは夜明けから作業を開始しました。最初に訪れたのは「先史時代の巨人」の化石が大量に発掘されたことで有名なシビロイ国立公園でした。約2万年前、ゾウガメやワニ、ゾウがこの地域には棲息していました。
最初の発掘現場へは車で凸凹道を数時間かけてたどり着きました(実際には、道ではなく、トラックが通った跡を進みました)。そこで、デニスとフランシスコは先史時代有数の巨大捕食者と対面しました(・・・と言っても、巨大捕食者の化石の一部と、ですが)。
発掘現場へ出かける前に、ルイーズ博士がチームARTECに色やテクスチャ、パターンなど、化石の見分け方について伝えていました。デニスとフランシスコがそのエリアを色々調査している内に、化石は、ここにも、あそこにも、・・・至る所に散らばっていることが明らかになりました。
シビロイ国立公園にある化石。
30分後、岩の上に巨大なワニの化石があるのを見つけました。約200万年前と推定されるこの先史時代の生き物は、おそらく、無防備な哺乳類を食べていたのでしょう。その巨大な顎は、硬く繊維質の肉を食べていたことを物語っています。
チームが現場についた時、この古代の頭蓋骨は前回見た時とは感じが異なっていました。ルイーズ博士がこの場所を最後に訪れてから7年が経っていました。TBIで陳列されている化石と異なり、この頭蓋骨は雨風から守る壁がありません。しかし、この4.5㎏もある歴史の断片がひっくり返っているのは、天候条件によるものではないでしょう。誰かが故意に破壊したことが明らかで、残念なことに破壊されたものを元に戻すことはできません。とにかく、私達は頭蓋骨の残っている部分をEvaでスキャンするためにセットアップをしました。
先史時代のワニの化石をARTEC Evaでスキャン。
この頭蓋骨から少し行ったところに、別のワニの完全な骨格が保管されている建物がありました。デニスはこのユニークな骨格をすぐに3Dスキャンすることにしました。骨格全体はEvaで、細かい部分はSpiderでスキャンしました。先史時代のワニをスキャンするのにかかった時間はたった20分程度で、これは、発掘現場をスキャンする際にかかった時間よりずっと少ない時間で済みました!
デニスがARTEC Evaでスキャンしている様子。
結果-ワニの化石の3D画像。
ワニをスキャン後に、デニスはゾウガメのスキャンを撮りに行きました。翌日、デニスは巨大なエレファス・レッキを撮影しました。これは、現代のエレファス・マキシムス (アジアゾウ)に似ていますが、これよりもぐっと大きな巨大ゾウです。
化石は大きく動かすことは困難ですが、ARTECの3Dイメージングソリューションを使えば、現場でのスキャンも簡単です。
化石が残される場所は、科学者にとっては宝の山です。比較的容易に発掘できる貴金属と異なり、このような巨大な骨格は大きすぎ、また壊れやすいことから動かすことができません。さらに、発掘現場にある化石は、化石自体とその周辺環境の両方を調査している科学者に多くのことを教えてくれます。発掘現場に化石をその場所から動かさずに、その場に保つことで、さまざまな分野の専門家がそれぞれの分野で解明し、理解するのに役立つ貴重なコンテキスト上のデータを得ることができます。そのため、TBIの研究者は地質学者や遺伝学者などと協力して研究しています。
一方、分野の異なる研究者同士が協力し合うためには、トゥルカナ湖のような遠く離れた場所で収集したデータに関係者がアクセスできなければなりません。3Dデジタルイメージング技術の発展により、研究結果を共有し、保存することは、第一線で活躍する科学者にとって通常の作業となりました。
たとえば、ルイーズ博士やそのチームはARTECのEvaとSpiderをほぼ毎日使用しています。また、博士の研究室を訪れる他の研究者にARTECスキャナの活用方法を伝えることさえあります。感銘を受けた研究者は、それぞれの研究で使用するために、その後、スキャナの購入を決めることも少なくありません。現在、博士の研究室ではARTECのスキャナを使って博物館に収蔵されている化石を3Dスキャンしています。
TBIの保存プロジェクトは、アーティファクトをスキャンすることを目標としたGoogleのアート・プロジェクトに似ているところがあります。Google アート・プロジェクトは、加盟博物館のギャラリーにアクセスできる仮想ポータルを構築することを目的として、2011年にスタートしました。このプロジェクトでは、芸術界が保有している素晴らしいコレクションの高解像度画像を展示しています。このプロジェクトでは、ARTEC Evaが活躍しています。
この先3Dスキャンが予定されている発掘された化石
TBIの研究者たちは、彼らが長年かけて蓄積してきたデータやトゥルカナ湖近くで発掘された化石に誰でもが簡単にアクセスできるようにすべきだと感じています。残念ながら、発掘された化石を3Dデジタルフォーマットでデータ化することは、頭蓋骨や歯の化石が複雑な形で、細部に富んでおり、テクスチャ情報が豊かであることが理由であることもあり、最近まで、技術的に困難で、無理やり行おうとした場合は、極めて費用が高くつくものでした。ルイーズ博士とのインタビューの中で、別のスキャナを使用していた時の経験について話してくれました。「かつて使用していたスキャナや写真測量機は、・・・なんというか、キャプチャすべき情報は膨大で、そこからどれだけ正確にデータをキャプチャすることができるかという問題がありました。ARTECのハンドヘルドスキャナは本当に素早くキャプチャでき、ほんの数年前まではできなかったことをたくさん可能にしています。」
ARTEC Spiderで3Dスキャンした190万年前と推定されるホモ・ハビリスの頭蓋骨。
ARTEC Spiderはこのパラントロプス・ボイセイ・マンディブルの詳細なデータとテクスチャを3Dスキャン。
ARTEC 3Dスキャナを使うことで、ビューワーは古代の生命と対面することができます。この高解像度スキャナは、まるで本物のような精度でデジタルレプリカを作ることができ、これを保管したり、オンライン展示したり、3Dプリントしたりすることができます。さらに、これらのスキャナは動作が早く、柔軟で、持ち運びやすく、使いやすいことも特徴です。ルイーズ博士も次のように同意しています。「化石のレプリカをコンピューター上で作成したり、これらを画面上で見たりすること。そんなことはかつては不可能でした。このような詳細なデータをキャプチャできるようになったことはとてつもなく大きな発展でした。現在、私達はどこでもスキャンすることができます。発掘作業を続ける中、私達は、毎日、いいえ、毎時間新しい物を発見しています。もし、現在私達ができているようにかつてスキャンすることができていれば、発掘の全工程をドキュメント化することができたでしょう。」ARTECには他社の追随を許さない長持ちバッテリーパックがあり、これを使えば、長時間電源を使わずに、現場でスキャンを行うことができ、ものすごい可能性を広げています。
スキャンにかけたのはたった30分で、その後、ARTECの自動位置合わせアルゴリズムによりシームレスに後処理を行います。
発掘現場以外で、研究することができたのは、かつては、博物館と世界の一部の研究機関だけでした。このため、化石は研究者以外の市民には馴染みのないものでした。TBIの膨大な収蔵品も、最近まではこの例外ではありませんでした。博物館と研究所に保管されたオブジェクトがその保管所を離れることはありません。しかし、これをデジタルで再モデル化することで、クリック1つで世界中にレプリカを提供したり、頒布したりすることができるようになりました。このようにして、3Dスキャン技術は博物館や研究所に保管されているオブジェクトを一般の人の目に触れる機会を提供し、最新の研究結果をデジタルメディアに紹介しています。
3Dレンダリング処理をしたゾウガメの甲羅。寸法や注釈も表示されている。
実際、これこそがルイーズ博士をTBIの研究経験をビジュアル化したウェブサイトAfrican Fossils(アフリカで出土された化石)をスタートするきっかけとなったといいます。ARTEC 3Dスキャナを始めとする3Dキャプチャリングツールを使い、TBIの研究結果は、現在、世界中の自宅や研究所から簡単にアクセスすることができます。
このような技術は、人類の歴史について話し合うための新しい道を切り開いています。ルイーズ博士は、ARTECとのインタビューの中で次のように語っています。「・・・ですから、今なら、私たちにはチャンスがあると考えました。化石をスキャンすることで、離れた場所でデジタル化した記録としてコレクションを保管することができるだけではなく、世界中のどこにいても、人々がこれらの化石を詳細に研究したり、見学したりすることができるようになります。」ARTECスキャナの画像処理能力とインターネットの無限の到達能力を組み合わせることで、科学的な対話の壁となっていた地理的な距離は事実上消滅したのです!
ストーリーの背景で活躍するスキャナ
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