Artec社製3Dスキャニングがイギリスの 忘れ去られた残酷な娯楽を明らかに
課題:四百年前の骨を、その本物のような複製を作成し、近代初期のイングランド王国の残酷な娯楽について国民に伝えるために利用できるほどの高精度でデジタル化すること。
ソリューション:Artec Space Spider、Artec Micro、及びArtec Studio
結果:博物館の訪問者が熊の骨のサイズや怪我を直に閲覧できるよう公開されている、3D印刷された実物のような骨のモデル。このことにより、標本の破壊解析実施前の当初の状態の永久保存も可能となる。
なぜ、Artec 3Dなのか:Artec社製3Dスキャニングにより、定期的に触れる必要もないまま、骨は正確にキャプチャされた。その結果、骨の損傷は回避され、測径器やフォトグラメトリを利用した場合よりも遥かに速い計測、及び3Dモデル化が完了した。
Artec Space Spiderによる遺産のデジタル化の方法を学ぶ、ノッティンガム大学の学生。写真は、ノッティンガム大学のご厚意で掲載
映画の中では森で迷った者を攻撃したがる捕食動物として常に描かれる傾向にあるが、熊は実際には人間によって虐待されていることの方が多い。継続的に捕獲下に置かれ、胆汁の抽出などの残酷な行為に晒されており、驚くことには、熊いじめが行われていた時代には更なる苦難を与えられていたのである。
雄牛が犬と闘うこと、もしくはその皮が販売可能となるまで『いじめ』られることを強いられる習わしとして始まったことが、十六世紀までには普及した形の娯楽へと進化していた。
我々の知る限りでは、ブラッドスポーツとしての動物いじめには牛(後に熊)が関わり、杭に繋がれた後に犬に攻撃されており、群衆は勝者に賭けを行っていた。シェイクスピア時代のロンドンではさほど顕著に行われていなかった、とお考えかもしれないが、それとは逆に、この娯楽は劇場の隣に見受けられたことも多く、かなり普及していたために王室に任命された闘う動物の『主人』さえも存在した。
十九世紀の熊いじめを描写した漫画。画像は、ウィキメディア・コモンズのご厚意で掲載
この娯楽としての動物いじめに無関心な英国人が多くなった今、新しい世代に国内の残酷な過去、すなわち、Artec Space Spider、及びArtec Microの支援でBox Office Bearsが啓蒙している教訓を教育する必要が未だ課題として残っている。
Box Office Bears
イギリスの熊いじめの歴史の背後にある動物の物語を明らかにして共有する目的で、ノッティンガム、オックスフォード、ローハンプトンの大学の研究者がロンドン考古学博物館(Museum of London Archeology、MOLA)へ協力し、Box Office Bearsが設立された。
この新たな取り組みは同娯楽、及びその奇異なほど高かった人気の理由に対する理解を深めることを目指し、骨や建設物の残骸、地図、日記などの発見品をまとめるために計画された。しかし、骨の標本を科学的に分析するためにはドリルで穴を開ける必要が生じ、この方法では極めて重要な新しい情報の発見に繋がるものの、標本の破損は避けられない。
かなりの額のアート&人文科学研究協議会(Arts and Humanities Research Council、AHRC)基金を集めた研究者班はまず、発見品をデジタル的に保存する方法を見出した。ゴールド認定Artec社パートナーであるPatrick Thorn and Co.社との連携により、同班は二台の実績のある、遺産保全分野に変革をもたらした機器であるArtec Micro、並びにArtec Space Spiderを入手し、その取り扱い方法を把握し始めた。
四百年前の脛骨のデジタル化
以上の機器が手元へ届く前の段階で、主任調査員のハナ・オレーガン(Hannah O’Regan)はノッティンガム医科大学(University of Nottingham Medical School)所有のSpace Spiderを利用し、初めての標本のスキャンを完了させることができた。
助教次席研究員のナタリア・ノエル=バーカー(Natasha Noel-Barker)は進み出てスキャニング業務を行い、四百年前の脛骨の正確なデジタル化が迅速かつ簡単に実行できることを発見した。標本自体は一般にデータ取得の困難な色である茶色であったが、極めて正確な機器を利用することで、ごく小規模の病変状態のように入り組んだディテールの驚くべき解像度でのキャプチャも実現した。
Artec Space Spiderにより、四百年前の熊の脛骨のスキャンデータの処理を行うノッティンガム大学のナタリア・ノエル=バーカー。画像は、ノッティンガム大学のご厚意で掲載
巻き尺やキャリパーでさえ『計測はほぼ不可能に近い』とオレーガンが言う、曲線状のNURBS(非一様有理Bスプライン)のサーフェスも見事な精度でキャプチャされた。事実、脛骨の3Dモデルはノエル=バーカーが最初に取得したスキャンデータによって非常にリアルな形で完成し、現在は訪問者がノッティンガム大学の『Bears! Nature, culture, and beyond! 』と名付けられた展示会で歴史を実地体験できるように3D印刷されている。
同機器の非接触性は、古く繊細な遺物を科学的に分析する際に期待できるとお考えの方もいらっしゃるかもしれないが、当研究者班にとっては3Dスキャニングに切り替えたことによるもう一つの主な利点となった。オレーガンと共同研究員が数世紀前の標本の分析に携わる中、Space Spiderは損傷や汚染の恐れの無い形でのデジタル化に最適であることを自ら証明した。
「同位体の研究や放射性炭素年代測定法、DNA分析においてはサンプルを取り、穴を開ける必要がある」とオレーガンは話す。「我々は3Dスキャニングに先駆け、写真撮影、及び計測を行うことになるが、今では骨の完全な形での記録のために3Dスキャンを行うことができる」
「Space Spiderなら、人々が直に、もしくはスクリーン上で標本を操作したり取り扱うことができるよう骨をデジタル化して3D印刷したり、ウェブサイトに埋め込んだりすることが可能となる。これは、素晴らしいことだ」
『唸る』ような高解像度の実現
ノッティンガム大学の実験助手であるスージー・シャーウィン(Susie Sherwin)は大学の新しいN-MESH Labs(Nottingham Materials and Environment Science and Heritage Laboratories、ノッティンガム材料科学・環境科学・遺産研究所)の遺産科学の取り組みにおけるデジタル化作業の中心となり、学校や博物館でのより規模の大きい展示会のために、古いサイコロから海賊のブーツまでに至るあらゆる物品の再現を行っている。
驚愕の十ミクロンの精度を誇る卓上型3DスキャナArtec Microにより、シャーウィンは極めて小さい入り組んだ構造のオブジェクトをキャプチャする傍ら、硬貨のような更に小さい物品をスキャンできるようになった。同機器のUSPに関しては、シャーウィンは「全角度からのキャプチャを可能とする」機器の性能だと捉え、「オブジェクトを回転させることを忘れなければ、Microがすべてのデータを確実に取得する」と話す。
他にも、シャーウィンは熊の調査に貢献し、バクストン博物館アートギャラリー(Buxton Museum and Art Gallery)からの頭蓋骨のデジタル化を行っている。その正確なキャプチャ性能と同様、Space Spiderの扱いやすいフォームファクターや携帯性はノッティンガム大学考古学博物館(Nottingham University Museum of Archeology)での展示のための標本の迅速、かつ正確な複製のために不可欠であった。
3Dスキャンデータキャプチャ及び処理用ソフトウェアであるArtec Studioも、この実現の要であった。 Patrick Thorn社から若干の助言の後、シャーウィンはこのプラットフォームの自動位置合わせアルゴリズムがスキャンを重ね合わせる際に完璧な結果を得るために最適であることに気付いた。その一方で、花瓶のデジタル化の際にはマニュアルでの位置合わせの方がより効果的であることも後に判明し、このプログラムの計り知れない柔軟性が浮き彫りになった。
この先数カ月、シャーウィンはArtec Studioのもう一つの高度な機能であるフォトグラメトリインポート(photogrammetry import)を試してみるつもりである。このデータと高解像度の3Dスキャニングを組み合わせることで、実物と見紛うテクスチャ、及び現在よりも更に正確なジオメトリを持つメッシュの作成が可能となる。
ノッティンガム大学の学生は既にこのテクノロジーを経験済みであり、シャーウィンはこのことが大学の共有するモデルの品質の向上にすぐに役立つと期待している。
「ネットワーク内には、学士課程の生徒が古代の文書やその他の博物館の所蔵品をスキャンできる、このデジタル研究所がある」とシャーウィンは説明する。「学生たちは以前はフォトグラメトリを利用していたが、今年は我々が3Dスキャニングを導入してこの二つの手法を融合させるため、更なる品質向上に繋がるだろう」
「フォトグラメトリ(のみ)では、必要なものすべてを取得できるとは限らないが、3Dスキャニングが利用できることは素晴らしいことであり、オブジェクトを三百六十度回転させたり、拡大させたりすることで更に多くのディテールをキャプチャすることが可能となる」
古代の秘密を明らかに
Artec社による3Dスキャニングにより、ノッティンガム大学の担当班は発見品の共有を始めただけではなく、自身のさらに幅広い研究目的のため、そのテクノロジーをワークフローに統合した。
「この導入は我々の心を躍らせるものであり、我々のワークフローの観点から見ると、あらゆる可能性を秘めている」とオレーガンは話す。「現在では、必要となるどんな骨でも標本にし、X線撮影をして3Dスキャンを行うことができる。この方法により、ドリルでの作業へ移る前に標本全体を良く把握し、記録することができる。これは、我々の視点からは非常に有益であると言える」
熊の等身大パネルと共にポーズを取る、Box Office Bears担当班の一員であるアンディ・ケッソン博士(Andy Kesson)、ハナ・オレーガン博士、並びにリアム・ルイス(Liam Lewis)博士。画像は、ノッティンガム大学のご厚意で掲載
今後、進んでいく中で、同学部のデジタル遺産のライブラリーは、所属する生徒がN-MESH Labで数の増え続ける技術ツールと取り組んでいく中で、間違いなく拡大の一途を辿るはずである。採用する手法が3Dスキャニング、フォトグラメトリ、メッシュ編集ソフトウェア、もしくはこの三つの併用のいずれであっても、実物そっくりのオンライン上の貴重な発見物がイギリスの遺産の研究に新たな聴衆を誘うことになるよう期待されている。
二〇二三年十二月三十一日まで開催されていたノッティンガム大学考古学博物館での展示会『Bears! Nature, culture, and beyond! 』にて、訪問者は熊の脛骨、及び頭蓋骨の原本を見学することが可能であった。
ノッティンガム大学の現在の3Dスキャン済みの考古学モデル選集には、こちらのSketchfabからアクセス可能である。
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