ドイツ企業がArtec Microを用いてパーソナライズジュエリーを作成し、ヨーロッパ市場に衝撃を与える
パトリック・ヒューブナー(Patrick Hübner)氏とジョセフィン・ハマー(Josephine Hammer)さんが第1子を迎えたとき、彼らの赤ちゃんの誕生や成長の記念品をいくつか保存しておきたいと思っていました。例えば最初に出てきた歯や、髪の毛の束、臍帯(出産後に持ち帰る方達もいます)などや、王道のとても小さな足形などです。多くの親達がそうするように、彼らもこのような特別な思い出の品をいくつか記念箱に保管しておきました。
しかし、新しく親となったこの2人にとっては、その品々だけでは満足できませんでした。彼らはもっと自分達のハートの近くに置いておけるもの、そして永遠に大切にできる「何か」を求めていました。
母乳から作られた石で作られたネックレスや、赤ちゃんの指紋や髪の毛が施された指輪、さらに犬の足跡が付いたペンダントなど、「天然素材」で作られたジュエリーの存在を彼が発見したとき、彼のアイデアは徐々に形成されていったのです。
当時、アメリカでは天然素材のジュエリーは徐々に人気を博していましたが、パトリック氏とジョセフィンさんはドイツやヨーロッパの地域ではそういった類のものを見たことがありませんでした。そんな状況から、milk-designという彼らのジュエリーをデザインするビジネスが、彼らの赤ちゃんの誕生と共に生まれたのです。
このカップルが正式に2017年にローンチした、milk-design Manufaktur GmbH は、彼らのオンラインストア(https://milk-design.com)によりビジネスが始まりました。彼らはそれぞれの顧客が持つユニークなストーリーや素材、そしてデザインの好みに基づいて、サステナブルなパーソナライズジュエリーの作成を始めたのです。
それぞれの作品は、お客様のユニークなストーリーや素材を基に作成されています
このオンラインストアを通じて、同社はさまざまな素材や宝石、そして色のデザインオプションをいくらか提供しています。彼らの顧客は事前にデザインされたジュエリーを選択し、頭髪や歯、へその緒、指紋や足跡、母乳など、独自の天然素材でカスタマイズさせた注文をすることができます。もしくは、顧客は全く新しいデザインを提供することもできますし、ピンタレストやインスタグラムで見たものや自分の手で描いたものを見せたり、すでに所有しているものをカスタマイズまたは複製する注文をすることもできます。基本的なデザインは150ユーロから始まり、色や石、または素材をそれぞれカスタマイズすると、追加料金が最終的なコストに追加される仕組みです。
パトリック氏とジョセフィンさんが最初に「思い出のジュエリー」と呼ぶものの取り扱いを始めたとき、彼らはブレスレットやペンダントなど、自分達が取り扱いたかった全種類のジュエリーの基本的な宝石のセッティングを中国、米国そしてオーストラリアの卸売店から購入しなければなりませんでした。これらのセッティングは、石や他の天然素材を後で埋め込むための部品でした。
これは多くのジュエリービジネスに共通して見られる状況ですが、milk-design はただただ非効率的なビジネスでしたし、費用も時間もかかりすぎていました。税関で必要なすべての料金を支払わなければならなかったのはもちろんですが、その輸入するセッティングが税関を通過するまで4〜6週間も待たなければなりませんでした。
その上、設計プロセスが遅くなるせいで、顧客は完成した注文を受け取るまでに非常に長い間待たなければならなかったので、顧客はそれに不満を感じることがもよくありました。彼らの一部のアイテムは需要が低かったために未使用で売れ残ってしまい、棚に置かれたままになってしまいましたが、彼らのチームはこのビジネスの性質上、そういった状況は予測できなかったのです。
パーソナライズされる準備ができている状態の、指輪の宝石用セッティングのサンプル
もう1つの課題は、既存のジュエリーを再現することでした。それはとても退屈なプロセスで、時間も長くかかりました。デザイナーは3Dソフトウェアでさらにカスタム化できるよう、STL形式の3Dモデルを取得するために、何度も繰り返す作業をしなければなりませんでした。
パトリック氏は、このプロセスをより速く、そして効率的にする方法が必要だと考えました。そして、この生産過程をなんとか高速化させ、宝石のセッティングを自分達で作成できるようにしてくれる3Dスキャナを探し始めました。
スキャナのリサーチをしていく中で、さまざまな種類のスキャナを検討しましたが、パトリック氏は Artec Micro が彼らのニーズを満たす、一番最適なスキャナであるという結論に至り、Microを選択することにしました。彼はちょうどArtecからゴールド認定を得た販売代理店であり、アンバサダーでもある KLIBを訪れようとしているところでした。KLIBとのセッションは、約3時間ほどかかりました。その間にKLIBのCEOであるニュート・リーマン(Knut Lehmann)氏は、パトリック氏がスキャナについて知っておくべき事項をすべて説明しました。また、リーマン氏は彼らへのプレゼントとして、スキャンスプレーのボトルを贈りました。それは、光沢があってつややかな表面を簡単にキャプチャするために必要不可欠となるものでした。彼らのようなジュエリーのスキャンが必要なビジネスにとって、それは重宝されるものになるはずだからです。
会社創設者のパトリック・ヒューブナー氏はArtec Microに大満足しています
「このスキャナの使いやすさにとても感激しました。誰でも、本当に文字通り誰でも、私の息子でさえこれなら使用できます!」とパトリック氏は言います。「使いやすさは私たちにとって最も重要な要素です。スキャンは私達が行う作業においては大きな過程の一部分にすぎないからです。書類用のスキャナと同様に、時間はそれほどかけず、使用は簡単であるべきです」
「Artec Microは、非常に小さなオブジェクトを高精度と優れた解像度でスキャンするには最良の選択肢です」とニュート氏は言います。「自動スキャンモードのおかげで、プロセス全体にほとんど時間がかかりません。ヒューブナー氏がデザインしたジュエリーのサンプルスキャンを行ってみたら、素晴らしい結果が得られました。ヒューブナー氏がMicroを選んだ理由はその正確さ、スピード、そして使いやすさの組み合わせでした。私達KLIBはそんなソリューションを提供することができて光栄でした」
Artecスキャナのファミリーに最近追加されたArtec Microは、2019年にリリースされました。このスキャナは、最大90×60×60 mmのサイズのオブジェクトを、最大10ミクロンの精度と0.029mmの解像度でキャプチャできるように設計されました。Microには高度なツインカラーカメラと、2軸回転システムに同期化された青色LEDライトが付属しており、最小限のフレームであらゆる角度から小型オブジェクトをキャプチャできます。それらすべてが、小型オブジェクトのリバースエンジニアリングや、ジュエリー製造、品質管理、検査、設計、歯科などに最適なスキャナにします。
おまけにArtec Microのスタイリッシュな見た目も、好感度を上げる要素です。「私のオフィスのデスクに来る人達は、みな口を揃えて「わあ、すごくかっこいいね!」と言います」とパトリック氏はコメントしました。「Artec Microは本当にゲームチェンジャーです」
Artec Microのおかげで、彼らは宝石のセッティングとカスタムデザインのジュエリーを完全に自分達で、しかもより持続可能な方法で作成できます。
milk-design チームはArtec Microを使用することで、宝石のセッティングとカスタムデザインのジュエリーの両方を完全に持続可能な方法を用いて自分達で作成できるようになりました。以前なら、必要なすべての物資を卸売店から入手するためだけに数週間かかっていました。しかし今では、必要な部分をスキャンと印刷、そして鋳造するのに数時間しかかかりません。既存のセッティングすべてがすぐにスキャンされたので、それらを再度注文しなくてもよくなりました。それらが必要になる度に、3Dプリントするようになったからです。
以前は、それらが完成次第、パトリック氏と彼のチームは作成したすべての作品をそれぞれの色ごとに写真を撮らなければなりませんでした。しかし、プロの照明や写真機器を使用しても、彼らが求める写真のクオリティを実現することは困難でした。この新しいワークフローのおかげで、彼らのチームはジュエリーの3Dモデルを印刷や鋳造作業に送る前にそれを顧客に見せることができるようになりました。これによって、顧客はジュエリーについての変更や追加ができるようになり、しかも最終的な製品がどんなものになるのか明確に知ることもできるようになりました。
鋳型用ワックスで3Dプリントされた指輪のサンプル
新しいプロセスは次のようになります。まず、顧客がオンラインストアで事前にデザインされた既存のジュエリーを選択し、それからデザイナーがジュエリーデザイン専用のソフトウェアである3Designを用いてモデルを完成させます。そこで、スキャンされた宝石のセッティングが選択され、それを顧客の望み通りに最適化させてから、最終的なジュエリーが鋳型用ワックスで3D印刷されます。次に必要な金属が入った鋳造機にこのワックスのテンプレートが入れられ、そこでジュエリーが実際に形成し、実物のものとなります。
ジュエリーを作成するための鋳造プロセスの一部
その後、デザイナーが鋳造されたセッティングをジュエリー用の天然素材に適合させます。ここで言う天然素材とは、宝石のイニシャルを施すための髪の毛であったり、または母乳であったり(成形するために沸騰させてからエポキシ樹脂と混合させます)、またはセッティングに掘って入れる指紋であったりします。
デザイナー兼創設者のジョセフィン・ハマーさんがサンドブラスト装置(砂吹き機)でジュエリーを洗浄している様子
また、このチームは一般的なお店では提供されていない、カスタムメイドのジュエリーをMicroを使用して作成します。顧客がネットで見つけたものや、外の自然にインスパイアされたものを作成したり、既存のジュエリーを複製してカスタマイズするのです。それがお気に入りの木から手にいれた葉でも、オンラインで購入したものでも、 Micro スキャナを利用することでパトリック氏らのチームは顧客の要求に応じてスキャンデータの変更に取り組むことができます。
最初の段階ではたくさんの時間が必要ですし、デザインと細かいディテールへ多くの注意を払わなければなりませんが、その費やされた時間は彼らの会社の成長につながりますし、ビジネスチャンスと会社の柔軟性にも貢献することになります。「STLファイルを入手したら、何回でもデザインし直すことができます。必要ならば、それこそ200回でもできます。それは私達にとって何の問題もありませんし、私たちはそのようなリクエストに対して顧客に請求はしません。彼らのリクエストから多くのことを学べますし、得られるからです」
ジョセフィンさんはエポキシ樹脂に入れた頭髪を使用してフクロウの模様を描きます
このスキャナから可能な限り最高な結果を得るために、パトリック氏らのチームはスキャンスプレーを使用します。これは、光沢のある表面や、つややかな表面をキャプチャするときに役立つものです。次に、作業場で金属とガラスの部品を磨く超音波装置を用いて、キャプチャしたジュエリーの部品を洗浄します。それからArtec Studioソフトウェアを使用して、キャプチャされたモデルが処理されます。最終的なSTLファイルは、さらなる変更を行うために3Designソフトウェアにエクスポートされます。
使用する天然素材と作業の複雑さによって、デザインと製造のプロセスには数時間から1週間かかる場合があります。たとえば母乳の場合では、エポキシ樹脂と混合させて、ジュエリーにきちんとフィットする最終的な形状になった後、母乳が固まるまでに1.5週間かかります。
ジュエリーに最後の磨きをかける
このプロセスを通して、パトリック氏が何よりも大切にしていることは、顧客と良い関係を築くことです。「カスタマーサービスはmilk-designが最重要視する部門です」と彼は言います。「私達のすべてのお客様は、どんなチャットアプリからでも、私達に最初のリクエストを送信すると、その後たった数分で私達からの返信を受け取ります」
注文されたジュエリーが完成したら、素敵なパッケージに包まれ、顧客の元へ送られます。「私達の製品は顧客ひとりひとりにとても個人的な価値を与えるものなので、クライアントからたくさんのお礼の手紙が届きます。彼らの多くは、送られてきた箱を初めて開けた瞬間に涙を流します。それは本当に特別な思い出の詰まったジュエリーですからね」とパトリック氏は言います。「ジュエリーをこれ以上ユニークなものにすることはできませんよ」
milk-designのパーソナライズジュエリーはすべてカスタマイズされたものです
2018年に最初に思いついたアイデアから始まり、彼らの会社のワークフローとカスタマイズされた製品そしてサービスにより、milk-designはドイツだけでなく、ヨーロッパ全体でパーソナライズされたジュエリーの市場でリーダー的存在になりました。
「実は、ヨーロッパのジュエリービジネスと金細工職人達は非常に保守的で古風なんです。彼らは未だに本当に古い機械を使用しますし、今でも肉体労働に大きく頼っています。その製造プロセス全体には非常に長い時間がかかり、それでも最終的な結果は完璧ではありません」とパトリック氏は説明します。「そして、1つの間違いを犯してしまったら、最初からまたやり直さなければなりません」
しかし、パトリック氏らのチームはその方法は効果的ではないアプローチであると感じています。「Artec Microのような最新の機械を使用すれば、はるかに速くデザインができますし、より完璧なジュエリーが作成できます」と彼は言います。「想像してみてください。通常の金細工職人の場合、1つの指輪を作るのに2〜3週間以上かかるんですよ。私達の場合、必要ならば3時間ちょっとあれば千から3千個の指輪を簡単に3Dプリントすることができます。それはただ私が何台プリンターを持っているかに依るだけですよ!」
パトリック氏がMicroで指輪をスキャンする様子
彼らの会社は当初の成功に基づいて、来年にはオーストリアとスイスにスタジオを開く予定で、今後数年間でさらに20店舗以上を開設しようとしています。当初は2人のチームでしたが、現在は5人の従業員を雇用しており、スキャナを使用するデザイナーを含め、今後数か月のうちにさらに5人を雇用する予定です。
「私達が他と違う点は、パーソナライズされたジュエリーをプロの仕事として作成していることです。同様のサービスを提供しているほとんどのジュエリーメーカー達は、趣味として時間のあるときに行っているので、プロ並みの品質やスピードを提供することはできません。それが私達をマーケットリーダーにしている理由です」とパトリック氏は言います。
Milk-design Manufakturチーム。左から:ジュエリーデザイナーのジョシ・ボーシ(Josi Borch )氏と創設者のパトリック・ヒューブナー氏とジョセフィン・ハマーさん
彼らのチームは、将来的にさらなるカスタマイズを希望する顧客に対し、アドオンのプレミアムサービスとして3Dスキャンを提供する計画を立てています。さらに、同社は木材やコンクリート、ガラスなどの追加素材を利用することで、クライアントのためにさらに美しくユニークなカスタムメイドのジュエリーを作成するつもりです。
「3Dスキャンとデザイン、そして印刷は私達のビジネスに多くの可能性をもたらしてくれるでしょう」とパトリック氏は言います。「私の周りの多くの人々は、このスキャナの価格ばかりに目をやり、その可能性が見えていない気がします。しかし、一度このスキャナに投資すれば、スキャンするだけでビジネスが成り立つこともあります。多くの企業は今でも自分達の手を使ってジュエリーを作成していますが、テクノロジーと手作業を組み合わせることで、より創造的になることができます。また、自動化できることは自動化させて、時間の節約をすることも可能になるのです。それがArtec Microが私達に与えてくれたことです。たった1度の投資でしたが、本当に投資してよかったと思えます」