キャンプ地を離れて第1日目:先史時代の巨大亀やワニ
これから数日間は発掘現場に行って、180~200万年前の巨大亀やワニ、象の化石をスキャンする予定になっている。
夜が明けるのを待って、シビロイ国立公園に出発した。この公園では数多くの先史時代の巨大化石や最大規模の化石、そのた極めて貴重な発見がされてきた。ケニア国立博物館で展示されているものほとんどはここで発見されたものだ。リチャードとミーブのリーキー夫妻は数十年前に化石をいくつか発掘したが、大きすぎて実験室にも博物館にも送ることができなかった。化石は約 200 万年前のものだった。長い時間の経過と天候条件により、化石には明らかに損傷を受けていた。3D スキャナを使いこれ以上状態が悪化してしまう前に、現在の状態を記録した。3D モデルから化石のレプリカを製作し、本物の化石の代わりに安全に博物館に送る予定だ。
最初の現場へ着くのに数時間を要した。舗装された道路がないためだ。歩道や ATV トラックはあるが、道路はない。現場へ着くまでの道がでこぼこだったため、キャリブレーションが狂わないようにスキャナをしっかり手で押さえた。
最初にスキャンしたのは、巨大なワニの頭蓋骨だった。その顎の巨大さは、魚ではなく哺乳類を丸呑みにしていたことを物語っていた。ルイーズ博士がその場を最後に訪れたのは 7 年前だった。その時点で、頭蓋骨は「巨大な化石コレクション」で唯一残されたものであり、その周りには天候から化石を守るための壁も建設されていなかった。僕たちは約 30 分かけてこの頭蓋骨を捜した。ようやく見つけたときには、誰もがその状態に打ちひしがれてしまった。頭蓋骨は粉々に砕け、ひっくり返されていた。この化石は約 4.5kg と結構重く、誰か心無い人によりこのような状態にされたことが明らかであった。
正午の太陽の光の中で、周辺の石を避けながらスキャンすることが困難なので、まず、頭蓋骨を日陰に移した。猛烈な暑さ、空気中を舞う砂埃、凹凸のある被写体の表面にもかかわらず、3D スキャンはかなり良い出来となった。
僕たちがスキャンしている間、別の化石が保管されている建物への鍵を取りにルイーズ博士とその同僚は(博士のご両親が建設した)昔のキャンプ地へと向かった。頭蓋骨のスキャンが終わると、すぐにワニの骨格のスキャンを開始した。
ルイーズ・リーキー博士と博士が少女時代に発掘を手伝ったワニの化石
こちらは、80年代に発見されたままの状態で、保存されていた。このワニが発見されたとき、ルイーズ博士はまだ少女だった。こちらのワニの顎は前にスキャンした巨大ワニのものに比べずっと小さく、魚のみを食していたのだろう。
1984年:ワニの化石を掘り出す母ミーブを助ける少女時代のルイーズとサミラ
発掘された化石を雨風から守るための壁が建設されていたが、あまり役に立っていなかった。骨格の化石の状態は良くなく、肋骨は折れ、骨にはひびが入っていた。砂や鳥もこの損傷に一役買っていた。すべてのツールをキャンプ地に置いてきてしまっていたため、ルイーズ博士は自分の歯ブラシを取り出し、ワニの化石に付着した鳥の糞や砂を取り除いた。可笑しな偶然だが、現場近くに、現地の人たちが歯を磨くためにその枝を使っている木が生えていた。そこで、僕たちもそれを使って「ペット」(トゥルカナ盆地研究所の研究者たちは、化石をそう呼んでいる)の掃除に参加した。
ワニの骨格全体には Eva を使い、20 分でスキャンが完了した。時々、背骨や一部の歯など細かい部分は、Spider を使った。
次にスキャンしたのは、巨大亀だ。スキャン自体は比較簡単で、Eva は正確に動作した。唯一問題となったのは、ノート型パソコンのバッテリーだった。ノート型パソコンのバッテリーは 1.5 時間しか持たず、長い時間をかけてディーゼル発電機からノート型パソコンに充電した。スキャンに要した時間は 30 分。甲羅内部のジオメトリーを正確にアセンブリするのは困難なので、自動機能を使うことにした。自動配列アルゴリズム機能により後処理はあっという間だった。
巨大亀をスキャンするルイーズ博士とデニス
象の化石をスキャンする時間は十分あったが、ルイーズ博士が危険を冒さないことを選んだため、暗くなる前に、キャンプ地に向けて戻り始めた。キャンプ地を建設したのは博士のご両親で、後に、ケニア国立博物館に寄贈された。この施設は化石をきれいにし、保管するための処理をするための基地となるはずだった。しかし、寄贈されてから何ら開発が進まず、地元スタッフにもそれを進めるだけの資金力がない。とはいえ、この施設で僕らは寝泊りし、電気製品の充電をすることができた。