アリゲーターの夢が叶う:ミスター・スタッブスに新たな尻尾を与えるためにArtec Evaが大活躍
Artec 3Dスキャナが、負傷したアリゲーターが新たな尻尾と人生のチャンスを得るために一役買いました。
アリゾナ警察が不審なトラックを道路で停止させた時、車内で32匹ものアリゲーターがズルズルと動いているとは思ってもみませんでした。
警察官は文字通り「アリゲーターが多すぎてどうしようもない」と気づくと、すぐにフェニックス爬虫両棲類協会(Phoenix Herpetological Society)に助けを求めました。ミスター・スタッブスを含むホームレスのアリゲーター達は、現在爬虫類1500匹を飼育している協会に引き取られました。
引き取られたアリゲーター達の1匹は尻尾が欠損していることから、すぐに「ミスター・スタッブス」と名付けられました。
アリゲーターにとって、尻尾の欠損は笑い事ではない。 写真提供:STAX3D
アリゲーターにとって、尻尾の欠損は笑い事ではありません。これは水中の深い場所で泳げない(簡単に溺れてしまう)というだけでなく、食事にも非常に苦労することを意味します。
彼の周囲のアリゲーターは尻尾を使用して突進や攻撃を行うので、獲物を素早く捕らえていました。これはミスター・スタッブスにとって、不運な動物がいたとして、その動物が空腹な彼の顎の前に倒れこなまい限り、恐らくその日の御馳走にはありつけないことを意味していました。
水泳に関する問題は、ミスター・スタッブスに前足を使った犬掻きを教えることで、部分的に解決しました。理想的ではありませんでしたが、少なくとも仰向けにひっくり返り溺れることはなくなりました。
フェニックス爬虫両棲類協会の会長ラス・ジョンソン氏は、ミスター・スタッブスにそれ以上のことをしてあげたいと感じており、あるアイデアを持っていました。
整形外科的難題を抱える人々を助けてきた経験を買われ、整形外科研究・教育センター(Center for Orthopedic Research and Education)(CORE協会)のマーク・ジャコフスキー博士と助手のサラ・ジャービス氏が呼ばれました。編成された専門家チームは人工尻尾の作成オプションを検討しました。
ミスター・スタッブスの将来の尻尾の3Dモデル。 写真提供:STAX3D
アリゾナ州にあるミッドウェスタン大学の解剖学准教授ジャスティン・ジョージ博士は長年アリゲーターや他の爬虫類の動きを研究しており、ミスター・スタッブスの新たな尻尾が身体にフィットする最善の方法を調べるために分析を手伝うと申し出ました。
フェニックス・ユニオン・バイオサイエンス高校から来ていた研究所の実習生サマンサ・アロヨス氏とジョージ博士はジャコフスキー博士と彼のチームと協力し、研究所にある様々な大きさのアリゲーター標本を参考として用いて、ミスター・スタッブスの残りの身体部分に比例してバランスがとれており、均等に配置されるような尻尾の適切なサイズ、重量および密度を計算しました。
これら数値の測定後、ジョージ博士は研究所から新たな尻尾のモデル用に1体の標本を選び、実際の人工尻尾の設計段階でジャコフスキー博士とCOREチームに意見を求めました。
「尻尾のないミスター・スタッブスはほぼ泳ぐことができず、かろうじて歩いている状態でした。陸上姿勢や歩き方も非常に悪く、長期的な関節や骨の健康に大きな懸念がありました」と、ジョージ博士。
ジョージ博士は以前、レーザー3Dスキャナを用いてアリゲーターの尻尾のスキャンを試みましたが、スキャンの質が低すぎて十分なディテールをキャプチャできませんでした。そこで、Artec 3Dの販売代理店であるSTAX3Dと連絡を取り、ミスター・スタッブスの新たな尻尾の作成への協力を要請しました。
アリゲーターをスキャンするための準備。 写真提供:STAX3D
「ジュスティンさんが最初に当社に連絡をしてきた時、非常に興味をそそられると共に、どのような状況に足を踏み入れたのか分かっていませんでした」と、STAX3Dのマイケル・アンドリュー氏は言います。STAX3Dは以前にも人工装具をArtecスキャナを用いて作成した経験がありましたが、それは人間用の装具のみでした。
現場に到着すると、STAX3DはArtec Evaを使用して、大きさが似ており最近死亡したアリゲーターの高解像度「鋳造尻尾」3Dモデルを作成しました(ジョージ博士とチームは先の人工尻尾にも、この尻尾をモデルとして使用していました)。Artec Eva 3Dスキャナはオブジェクトの表面に光のパターンをビーム照射することで動作し、光がスキャナに跳ね返った時にその時歪んでいる光がArtec Studioソフトウェアにより瞬時に分析され、オブジェクトの形が1秒あたり最大16フレームの高解像度で特定・記録されます。
STAX3Dは得られたデータをArtec Studioで処理し、ミスター・スタッブスの僅かに残った尻尾部分に完全に合うように3Dモデルと不具合の修正、およびサイズとフィット感の調整を行いました。その後、ファイルをSTLでエクスポートし、それを使用して3Dプリントの尻尾が作成されました。
パワフルで高解像度なArtec Evaは最小5mmのディテールをキャプチャ可能でありながら、特大のアリゲーターの尻尾やそれ以上に大型なオブジェクトにも使用でき、このプロジェクトに最適でした。
「私達は最初の試作品に使ったスキャナと比べて、Artecスキャナの速さと質の高さに驚きました」と、ジョージ博士。
パワフルで高解像度なArtec Evaはこのプロジェクトに最適。 写真提供:STAX3D
ジョージ博士とチームはデジタルモデルを表示・修正する際にその驚異のコントロール性を実感し、非常に喜びました。「尻尾のサイズと形のディテールに対する精緻なコントロールにより、様々な性状を実際に試す機会を得られたので、より直接的なレベルで人工尻尾がミスター・スタッブスに与える影響を理解することができました」と、ジョージ博士は話します。
カスタムモデルを3Dプリントした後、研究者達はシリコン鋳形を作成し、それを基にしてミスター・スタッブス用人工尻尾数本がカスタムメイドされました。
現在では、ミスター・スタッブスは人工尻尾を装着すると、まるでいつでもそこに人工尻尾があったかのようにとても自然に振る舞っています。着用時もストレスや不快感を感じている様子は見られず、自然な着用感であることを証明しています。
現在では、ミスター・スタッブスは人工尻尾を装着すると、まるでいつでもそこに人工尻尾があったかのようにとても自然に振る舞っています。 写真提供:STAX3D
ミスター・スタッブスは過去の不便さを忘れ始め、普通のアリゲーターのようにますます振る舞っています。残りの冷血なアリゲーター仲間と同じように、屋外で泳ぎ、水中に潜り、食事用の獲物に突進しています。
ミスター・スタッブスは今後50~60年間の人生で、体が大きくなるにつれ(アリゲーターの成体は最大体長6メートルになる可能性があります)、新たな尻尾を40本ほども装着する必要があります。3Dモデルが手元にある現在、改良を行い新たな尻尾をプリントすることは簡単に行えます。
フェニックス爬虫両棲類協会の会長ラス・ジョンソン氏はアリゾナ・リパブリック紙に「ミスター・スタッブスはここで後々まで幸せに暮らすことでしょう」と、述べました。
CORE協会は、この特別プロジェクトの作業と使用された材料の提供をすべて無償で行いました。人工尻尾の被覆には、軽量で柔軟性のある特別なシリコン素材で、人工装具の他にも映画のアニマトロニックスや特殊効果を作るのに広く使用されているDragon Skin®が使用されました。
Sketchfabの尻尾の3Dモデル
これは確実にアリゲーターの人工装具分野における飛躍的進歩ですが、3Dスキャンとプリントは人間用人工装具の分野においても更に大きな進歩を遂げています。「これは未来の話ではなく、現在起こっていることです。企業や個人が以前の人工装具の製造方法の限界を乗り越えるために、この技術を使用・活用しています。この技術があれば、数多くの手順を省略して時間を節約することができます」と、アンドリュー氏。
同プロジェクトの関係者全員が、ミスター・スタッブスの新たな尻尾によって、このダイナミックな分野にさらに注目が集まることを望んでいます。ジョージ博士は「今回のプロジェクトでは、人工装具の分野で3Dスキャンとプリントが実現可能なことの極一部分を垣間見たに過ぎません。恐らく、ミスター・スタッブスのケースで一番重要なことは、人々の想像力をかき立て、これらの限界を更に押し上げるようインスピレーションを与えることだと思います」と、最後に語りました。